「2つの部品を組み合わせると精度が落ちる……」「でも一体化して削り出すとコストが合わない……」。そんな設計現場のジレンマを解決するのが、ヤマナカゴーキンの多軸複動プレスによるワンショット成形です。今回は、変速機やEVの減速機などに欠かせない「2段ヘリカルギヤ」の開発事例をご紹介します。別々に作っていたパーツをひとつの塊から一度に成形することで、コンパクトさと高精度を両立させた、当社の工夫と技術のポイントをまとめていますので、ぜひご覧ください。
| 製品名称 | 2段ヘリカルギヤ |
| 用途 | 自動車(変速機・EV減速機) |
| 材質 | SCM420 |
| サイズ | 大ギヤ径:150φ / 小ギヤ径:50φ / 高さ:90mm / ねじれ角:24° |
| 工法 | 冷間鍛造 |
| 成形荷重 | 500tonf |
| 開発期間 | 3ヶ月 |
開発の背景と課題
本製品は、自動車の変速機やEV用減速機に使用される、大径と小径のギヤが重なった特徴的な形状の2段ヘリカルギヤです。
設計上の最大の特徴は、「大ギヤの内側に小ギヤの一部が潜り込んでいる」点にあります。

横から見ると小径歯の付け根や不完全歯部が大径部の中に隠れる構造となっており、これによりギヤ同士の距離を極限まで短縮し、ユニット全体のコンパクト化を実現しています。しかし、この形状を製作するには大きな壁がありました。
従来工法の限界
2つのギヤを別々に作り結合させる手法では、部品数が増え、在庫や物流といった管理コストが増大します。また、何より変速機商品からの要求精度が高まっている中、「同芯度(歯振れ精度)」の確保が難しくなっており、別々の2つのギヤを組み立てること自体、精度を悪化させています。その結果、最終的な製品の性能面において妥協が生じます。
ホブ切りでの一体加工は物理的に不可能です。シェービング加工では多大な加工時間と、工具費・材料ロスがかさみ、量産コストが高くなるため、現実的ではありません。
このように、「品質を高めるための部品一体化」と「コストを抑えるための歯切り工程廃止(鍛造化)」の両立は、多くの製造現場が直面する大きな課題のひとつです。 そこで、今回の事例では、あらかじめ別工法でベースとなる部品形状を作り上げ、「大ギヤ径・小ギヤ径の2箇所の歯を作る工程」に当社の鍛造技術を投入しました。
多軸複動プレス活用で2箇所の歯形をワンショットで成形
当社が得意とする「多軸複動プレス」の技術を最大限に引き出し、すでに形作られたワークに対して、大小2つの歯形を一度のプレス(ワンショット)で成形する工法を確立しました。

最大の特徴は、同一の金型内で大ギヤ・小ギヤの歯形を同時に成形できる点にあります。これによって、別々に加工したパーツを組み合わせる従来の手法と同程度の高い同軸精度を確保することが可能です。
また、この多軸複動プレスによる鍛造化は、切削加工では物理的に刃が届かない、または工数・コストがかかる「大ギヤの内側に潜り込むような小ギヤ」の成形において、その真価を発揮します。鍛造化の最大の利点は、不完全歯領域を最小化できることです。これにより、限られたスペースでも必要な歯の長さを効率よく確保できるため、形状の最適化が進み、結果としてユニット全体の小型化を実現できます。
高精度CAE解析による金型設計の最適化
難易度の高いワンショット成形を確実に成功させるためには、経験則だけに頼らない、高度なCAE解析による事前シミュレーションが不可欠です。当社では、設計段階からバーチャル上で成形プロセスを徹底的に検証し、金型設計の最適化を図っています。
複雑なモーションの制御
今回の事例では、一回のプレスサイクルの中で「モーション1:小ギヤ径の成形」から「モーション2:大ギヤ径の成形」へと連続して移行する特殊なプロセスを採用しています。
このワンショット内での複雑な材料流動をCAE解析で可視化することで、材料がどこで、どのタイミングで、どのように動くのかを細かくコントロールしました。このモーション制御により、大小異なる歯形の形状精度を高い次元で安定させています。

金型の早期破損リスクの排除(最大主応力解析)
ヘリカルギヤの成形、特に2段の同時成形では金型に非常に大きな負荷がかかります。そこで当社では、大径・小径それぞれのギヤ成形時に金型へかかる応力をCAEによって数値化。応力が集中しやすい箇所を特定し、最大主応力が金型の許容範囲内に収まっているかを厳格に検証しました。
事前のシミュレーションで破損リスクを徹底的に排除しておくことで、量産開始後の突発的な金型破損を防ぎ、安定した生産ラインの稼働を可能とします。

ギヤの歯先充填と「ダレ」の高度な予測精度
ギヤ成形において重要、かつ難しいのが「歯先まで可能な限りしっかりと材料を充填させること」です。解析では、歯先の充填精度を「最小距離(金型と材料の隙間)」という指標で評価しました。
特筆すべきは、解析で予測した歯先の「ダレ」の傾向が、実機テストの結果とわずか数ミリ精度の誤差で相対的に一致した点です。さらに、この補正をすることで2回目以降の相対比較精度予測の的中率は限りなく100%に近づきます。この高い解析精度こそが、試作回数の低減と、設計図面通りの高精度な製品づくりを可能にするヤマナカゴーキンの大きな武器となっています。

鍛造でこそ実現できる、次世代の変速機設計
今回の開発における最大の成果は、単なるコスト削減に留まらず、鍛造という工法だからこそ可能になった「理想的な部品形状」の実現にあります。
切削加工の物理的な制約によって、これまでは別体構造や非効率な加工を余儀なくされていた2段ヘリカルギヤを、多軸複動プレスの活用によりワンショットで一体成形。これにより、管理コストの削減はもちろん、高い同軸度と、ユニットのコンパクト化に直結する「潜り込み形状」を両立させることができました。
この難易度の高い成形を支えたのが、当社の長年の知見とCAE解析による数値の裏付けです。金型の最大主応力や歯先の充填精度を、試作前に可視化して最適解を導き出すことで、開発期間の短縮と信頼性の高い量産プロセスを構築しました。
「こんな複雑な形状は鍛造では無理だろう」「一体化したいけれど加工の手段がない」――そんなお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度ヤマナカゴーキンにご相談ください。私たちが培ってきた技術と解析力を駆使して、お客様が描く理想の設計をカタチにするお手伝いをいたします。
このコンテンツの執筆者

H.T ㈱ヤマナカゴーキン ソリューション本部 理事
通称「鍛造オヤジ」として親しまれる、43年間一貫して鍛造に携わり続けてきた熟練技術者です。 長年自動車メーカーに勤め、型設計から設備導入、新部品の立ち上げ、高度な鍛造工法の開発まで、 あらゆる工程を一通り熟知してまいりました。その技術力は公的にも高く評価されており、過去2回「素形材産業技術賞」を受賞した実績もあります。
ヤマナカゴーキンに籍を置いてからも10年を超え、蓄積された知見を武器にお客様へ最適な提案を続けています。 現在は理事という立場にありますが、 常に「五ゲン主義」をモットーとして、 今もなお、実務の最前線でバリバリと指揮を執っています。
これまでに培った知見を次世代へ引き継ぐべく、 現在は「"2代目"鍛造オヤジ」の育成にも情熱を注いでいます。

